PROTACは膜タンパク質を分解できるのか

結論から言うとできるのだが、この疑問についてもArvinas社が答えている。前回紹介した論文と同時に発表された論文である。

なぜ膜タンパク質か

膜タンパク質は細胞膜に突き刺さった形をしているタンパク質で、外界からのシグナルを細胞内に伝達する役割を果たしている。その中には細胞増殖に関するシグナルを細胞内に伝達する膜タンパク質もあり、通常は厳密に制御されている。ところが、この膜タンパク質に変異が起こると、細胞外のシグナルが無くとも恒常的に細胞内に増殖のシグナルを送り続けてしまうことがある。これが一部のがんの原因となっており、最も有名なものはハーセプチンの標的であるHER2だろう。

ここでPROTACを使うことを考えてみよう。がんの原因となっている膜タンパク質は、単に阻害するよりも分解したほうが効果がありそうである。しかし、細胞膜に突き刺さった膜タンパク質をPROTACは分解できるのだろうか?プロテアソームが細胞膜近くに来られたとしても、細胞外に出ている部分にはさすがにアクセスできないはずだ。だから、膜タンパク質をPROTACで分解できるかどうかというのは大きな疑問だった。

PROTACは膜タンパク質も分解する

実際にやってみたところ、がんに関わる膜タンパク質であるEGFR, HER2, c-MetのいずれもPROTACで効率的に分解できることが分かった。また、EGFRには多様な変異体が知られているが、どれもリガンドを適したものに変えることで分解可能であった。

ところで、本当に細胞膜上の膜タンパク質を直接的に分解したのだろうか?膜タンパク質が合成されてから細胞膜に輸送されるまでの間にPROTACが作用したと考えることもできる。これも確かめていて、やはり細胞膜上のタンパク質を細胞膜内に内在化させながら分解をしているようだ。詳細な機構は不明だが、プロテアソームにもともと膜タンパク質を分解できる機能が備わっているということなのだろう。

PROTACはキノームリワイヤリングが起きない

日本語でいうと「キナーゼの再配線」といったところだろうか。チロシンキナーゼ型受容体(RTK)は通常ホモダイマーとして働くのだが、従来型の阻害剤と入れると別の種類のRTKとヘテロダイマーを作ることがある。別の種類のRTKは阻害剤が効かないから、結局下流のシグナルは再び流れ始めることになる。この耐性のような現象がキノームリワイヤリングである。

面白いことに、PROTACでRTKを分解してしまうと、キノームリワイヤリングが起きず、耐性が生じないことが分かった。リワイヤリングも何も元のRTKが存在せずScaffold機能も失われているのだから当然は当然なのだが、これが薬剤耐性の獲得機構に関わっているのだから、その意義は大きい。

この他にも、PROTACは異常に長寿命の変異RTKも分解できることなどが示されている。これは内在化や分解に関わるドメインを欠いた変異、つまり本来備わっているべき「オフスイッチ」を欠いたものだ。そうした普通は手の施しようがない相手でも、PROTACは強制的にオフスイッチを入れることができるのだ。

感想

現行のArvinas社の開発パイプラインはARやERといった核内受容体が中心だが、やはり細胞膜内のタンパク質をノックダウンするというのは安全性の面でやや心配が残る。そういった意味で、本来のシグナルの入り口である膜タンパク質が分解できるという事実は大きい。

抗体医薬がアクセスできない細胞膜内の標的を狙える、という中分子モダリティーの権利を1つ放棄することにはなるが、それを上回るメリットが示されたように思う。PROTACのリガンドには結合能があればよく、阻害能は必須ではない。従って活性中心を狙う必要は無いのだから、変異が起きにくい部位に結合するリガンドを探してくれば、耐性の出にくい抗がん剤に仕上げることもできそうだ。特にキナーゼは選択性が問題になることが多いので、その面でもメリットがある。

結局一周して、またリガンドを探索する時代がやってきたのかもしれない。バイオロジクスにやられっぱなしだったメドケムにとって、少しだけ明るい未来が見え始めてている。

出典

“The Advantages of Targeted Protein Degradation Over Inhibition: An RTK Case Study”

C. M. Crews et al., Cell Chem. Biol., 25, 67 (2018)

doi: 10.1016/j.chembiol.2017.09.009

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