Arvinas社がPROTACの秘密を明かす

今年に入ったばかりの頃の論文だが、Arvinas社がPROTACの秘密を惜しげもなく公開した。PROTACの分解能はリガンドの結合能とどれだけ相関するのか、という重要な疑問に対する解答であり、もちろん分解の選択性にも関わっている。どんな実験をしたのかも含めて、内容を見てみよう。

PROTACは活性も選択性もリガンドから変化する

Foretinibというキナーゼ阻害剤は実に133種ものキナーゼに結合するから、PROTACにした時に結合能や選択性がどう変わるか見るという目的には最適なリガンドである。しかも、Foretinibはc-Metというキナーゼとの共結晶のX線が既に撮られているから、リンカーを生やす位置も溶媒露出部位から簡単に決められる。そこで筆者は、Foretinibをリガンドに用いて以下の4種類のPROTACを合成した。

  1. Foretinib-linker-VHLリガンド(VHL PROTAC)
  2. Foretinib-linker-CRBNリガンド(CRBN PROTAC)
  3. Foretinib-linker-VHLリガンド誘導体(VHL PROTACのネガコン)
  4. Foretinib-linker-CRBNリガンド誘導体(CRBN PROTACのネガコン)

1と2は所望のPROTACで、3と4はネガティブコントロールである。VHLリガンド誘導体は1か所の立体化学が逆転していて、CRBNリガンド誘導体はメチル化されているから、いずれもユビキチンリガーゼと結合できない。なぜこんなものを用意するのかと言うと、ユビキチンリガーゼとの結合が分解に必須であることを確かめるためであり、それも物理化学的性質が1や2と同等なら直接的な比較ができるためである。

合成したPROTACの結合能を確認すると、1は52種類、2は62種類のキナーゼと結合することが分かった。1と2はForetinib-linker部分は共通なのだが、既に結合能と選択性に差が生じており、興味深い。

PROTACの分解能はリガンドの結合能と相関しない

1と2のタンパク質分解活性を確認したところ、1は36種類、2は62種類のタンパク質を分解することが分かった。興味深いことに、両方のPROTACで分解できたタンパク質は12種類だけであった。

素性の知れた54種類のキナーゼに絞って見てみると、1は9種類、2は14種類のキナーゼだけを分解しており、リガンド単体よりも遥かに高い選択性を持つことが分かった。また、PROTACの結合能と分解能との間に相関がほとんど無いことも明らかになった。

例えば1はRIPK2, c-Met, SLK, Axlといったキナーゼと強く結合し、RIPK2とc-Metは実際にほぼ完全に分解できた一方で、SLKとAxlは全く分解しなかった。これとは逆に、結合能がわずか11 uMしかないp38aはほぼ完全に分解された。2もキナーゼの種類こそ違うが、傾向は似たようなものだ。リガンドからはPROTACの分解能を正しく予想できないのである。

三者複合体の安定性がカギ

ここで、PROTACがタンパク質をどうやって分解するのか思い出してみよう。PROTACは標的タンパク質とユビキチンリガーゼを紐付け、ユビキチンリガーゼが標的タンパク質をユビキチン化できる位置関係に配置させる。ユビキチン化された標的タンパク質は、プロテアソームにより分解される。

そう、ユビキチン化が重要なのである。ということは、標的タンパク質-PROTAC-ユビキチンリガーゼの三者複合体がどれだけできるかが、ユビキチン化の効率に関わっているはずだ。それには、三者複合体の安定性を調べれば良い。

筆者はVHLをベイト(釣り餌)に用いたプルダウンアッセイを行った。PROTACとタンパク質の混合物を流すことで、安定な三者複合体を形成するものだけを吸着させることができる。この実験の結果、高い分解能を示したタンパク質はいずれも安定な三者複合体を形成することが分かった。

三者複合体の安定性に重要なのは、標的タンパク質とユビキチンリガーゼの間のPPI(タンパク質間相互作用)である。このことは、相互作用部位のアミノ酸残基の変異実験によっても確かめられた。そこまでやるかという徹底ぶりである。

本質はユビキチン化の可否

ところで逆は成り立つのか、即ち安定な三者複合体を形成するタンパク質なら必ず分解できるのかというと、話はそう単純ではないようだ。実際、安定な三者複合体を形成するのに、全く分解できないタンパク質が存在する。

この原因として、標的タンパク質のリジン残基にユビキチンリガーゼがアクセスできない可能性が考えられる。ユビキチン化はどこでも起きるわけではなく、リジン残基のアミノ基とユビキチンのカルボキシル基がアミド結合を形成する必要がある。そのため、三者複合体が安定であったとしても、やはりリジン残基が良い位置にいないとユビキチン化は起きないのである。

ただこれは非常に微妙なバランスで、どちらかのリガンドを変えただけでも容易に分解するようになることもあるようだ。逆に言うと似たようなPROTACでも、リガンドやリンカーを少し変更するだけで大幅に性能が変化するということになる。現状ではこれらを予測できるモデルは存在せず、実際に全部作って分解能を評価するしか無さそうである。

感想

PROTACデザインのノウハウが満載で非常に面白い一報だった。Arvinasにはこれだけの成果を公開しても他社が追いつけないという自信があるのだろう。

三者複合体の安定性をプルダウンで測るとか、hook効果の回避のために2濃度で分解能を測るとか、擬エナンチオマーをネガコンに使うとか、そういった評価系の工夫も見逃せない。ニューモダリティを思いつくのもそうだが、それに対応した評価系を組んで自ら開拓していく姿は流石という他ない。

出典

”Lessons in PROTAC Design from Selective Degradation with a Promiscuous Warhead”

C. M. Crews et al., Cell Chem. Biol., 25, 78 (2018)

doi: 10.1016/j.chembiol.2017.09.010

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