HRRP(再入院削減プログラム)の弊害

医療費の削減はどの国でも課題になっています。中でもアメリカの医療制度は複雑怪奇なもので、最近ではPBMのリベートなど薬価制度が激しく議論されています。

今回は米国の主に高齢者向けの公的保険であるメディケアで導入された、HRRP(再入院削減プログラム)という医療費削減策の失敗について紹介します。

The pay-for-performance program that penalizes hospitals for "excess" readmissions wasn't based on evidence. It has ended up harming patients.

背景:医療費は成果に基づかない

医療費は基本的には出来高払い制度で、病気を治すという成果に対してではなく、病気を治すための処置に対して発生します。

どんな病気でも一回の手術で治せる名医と、何回手術をしても治せないヤブ医者を考えてみましょう。病気を治すという成果を上げているのはもちろん名医の方で、患者もペイヤー(保険会社)も名医の方を評価するし、より多くのお金で報いたいと思うものです。逆にヤブ医者には1円たりとも払いたくないでしょう。

ところが、出来高払い制度ではそうはなりません。名医に支払われる医療費は手術1回分だけなのに対し、ヤブ医者は手術の回数分だけ医療費がもらえるわけです。このままでは病気を治せないヤブ医者に延々とお金が支払われることになってしまい、医療経済的に不合理です。そのため、医療費も成果に基づいて支払うことにしようと考えられてきました。出来高払い制度のかわりに包括払い制度を導入するというのも、その対策の一つです。

HRRP(再入院削減プログラム)

米国の主に高齢者向けの公的保険であるメディケアでは、2012年にHRRP (Hospital Readmissions Reduction Program)という再入院削減プログラムが導入されました。これは再入院者が多い病院にはペナルティを課すもので、上記の成果に基づいた支払いという考え方に基づくものです。

具体的には心不全や肺炎といった6種の疾患に対して、30日以内に再入院した患者の割合を算出します。その割合が一定値を超えていた病院は、保険の支払額が減額される(病院の収入が減る)という仕組みです。このペナルティは数億円に上ることがあります。

なるほど、これなら再入院の必要が無いほど良質な医療を提供した病院は正当に評価されるし、逆にそうでない病院はペナルティを受けます。ということは、どの病院も良質な医療を提供しようと努力し、医療の質の向上と医療費の削減が同時に達成できそうです。

それでは実際どうなったか?なんと、この制度は何千人もの患者を死に追いやった可能性があると糾弾されており、更に悪いことに医療費も削減されなかったと言われています。

A well-intentioned program created by the Affordable Care Act may have led to patient deaths.

何が起こったのでしょうか?実際に再入院率は減少しましたが、実は退院後30日以内の患者の死亡率は増えていたのです。この原因は、病院が30日以内の再入院を拒否して家に帰したり、観察室に送ったりしたためだと考えられています。また、再入院できなかった患者の緊急治療室の使用頻度が増えたため、結局医療費も削減されなかったと言われています。

そもそも再入院率は病院がコントロールできないところに原因があるものです。患者の所得・教育水準や人種などが典型で、地域のセーフティネットとなっているような病院は、そういった再入院リスクの高い患者を多く受け入れる傾向にあります。

しかし、そういった医療行政上重要な病院ほど、病院の努力と無関係なところが原因で過剰なペナルティを受けてしまうという弊害も生まれています。ペナルティを受けた結果、貧困層に対する医療環境は悪化し、再入院率はますます悪化するでしょう。

ちょっと考えてみたらこういう結果になることは明らかだったわけで、当初から制度に欠陥があったと言ってよいと思います。新薬には厳格な臨床試験に基づいたエビデンスが徹底的に求められるのと同じように、医療政策もまたエビデンスに基づいて決められなければならないはずなのです。

感想

この結果を受けて非難するのは簡単ですが、医療水準の向上と医療費の削減に向けて行動したこと自体は評価するべきです。 また、HRRPも失敗に対する反省から、制度の改善が進められています。

日本も同様の問題に直面しながらも、医師会や政権の支持層への配慮から行動自体ができないものです。目先の利害よりも、持続可能な医療の提供という全プレーヤー共通の成果目標を明確にして、リーダーシップを発揮して取り組むことが求められているのです。

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