偏頭痛に20年振りの新薬が出揃う。その歴史。

ここ数ヶ月で偏頭痛の治療薬が米国で相次いで承認されている。アムジェンのエレヌマブとイーライリリーのガルカネズマブ、テバのフレマネズマブ、そしてメルクのユブロゲパントである。偏頭痛という巨大市場にこれだけの新薬が同時に登場することから、期待の新薬ながら既に価格競争が始まっているそうである。

現行の偏頭痛治療薬のトリプタンは1990年代に使われ始めたというから、実に20年振りの新薬ということになる。これを機に、偏頭痛とCGRPの研究をまとめた総説がNatureの姉妹誌に掲載されていたので、簡単に紹介したい。

CGRP受容体拮抗薬”ゲパント”

冒頭で挙げた新薬は、いずれもカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)又はその受容体を標的としている。

CGRPは1982年に発見された37残基のペプチドである。頭痛に関わる三叉神経系に存在すること、脳血管の拡張作用を持つことなどから、当初から偏頭痛の病態に関与していると考えられていた。その後の臨床試験で、CGRPを静注すると偏頭痛様の頭痛が誘発されること、偏頭痛治療薬として使われていたトリプタンがCGRPを減少させることが確認され、CGRPが偏頭痛の原因であることが決定的になった。

2000年に入り、ゲパントと総称されるCGRP受容体拮抗薬の開発が始まった。臨床試験の結果は良好だったが、長期投与の肝毒性が見つかり開発は中止されることになる。この肝毒性を回避して承認にこぎつけたのが、新薬のユブロゲパントである。

ゲパントのいいところは、低分子なので経口投与ができる点にある。従って、偏頭痛の発作時に頓服として服用することが想定されている。

抗CGRP抗体

ゲパントの臨床試験が肝毒性でストップしたのと同時期から、抗CGRP抗体の開発が始まった。抗体は肝臓で代謝されないから肝毒性が回避できるが、経口投与ができないから発作時に服用することは難しい。従って、その利用はもっぱら偏頭痛の予防に焦点が当てられる。実際、新薬のエレヌマブ、ガルカネズマブ、フレマネズマブはいずれも偏頭痛の予防薬である。

抗体医薬は注射が必要になるからやや不便と思われがちだが、血中半減期を数十日と長くできるので、基本的には月1回、ものによっては3ヶ月に1回の投与で済むようである。月1回というと悩ましいところではあるが、3ヶ月に1回の通院なら負担感はかなり小さいだろう。

なぜ抗体が効くのか

偏頭痛なのに抗体医薬ということに疑問を持つかもしれない。抗体医薬は血液脳関門を越えられないのに、どうして偏頭痛を治せるのか。この疑問に答えられるよう、偏頭痛という病気の理解も変化したようだ。

もともと偏頭痛は他の頭痛との関連から、脳血管の拡張により引き起こされるものだと考えられていた。実際、CGRPは血管拡張因子として脳への血流を維持する作用を持つので、自然な仮説である。ところが、ゲパントも抗体医薬も血液脳関門を越えることができないのに薬効がある。従って、血液脳関門の内側で作用して血管拡張を抑制しているわけではなさそうである。

現在ではCGRP拮抗薬は三叉神経節で作用していると考えられている。三叉神経節には血液脳関門が存在せず、中枢神経系に比べて30倍以上も膜透過性が良い。頭痛の始まり自体は中枢神経系なのだが、受け取った痛みシグナルを増幅しているのが三叉神経節ということらしい。

三叉神経節ならゲパントも抗体もアクセスできるし、無駄に脳内移行しないから脳血管系の重篤な副作用が起こりにくい。研究の進展に従って徐々に明らかになってきたことだが、結果的には非常によくできた機構の薬剤になっていると考えられる。

感想

こうして一つの疾患の治療薬の歴史を紐解いてみると、いろいろと教訓が見えてくるものである。偏頭痛という巨大市場に日本勢が一剤も出せていないのだから、この教訓は生かされなければならない。

1つ目には、病気を理解し作用機序を明らかにすることである。標的は血液脳関門の内側、原因は脳血管の拡張と決め打ちしていたら、ここには辿り着かなかったかもしれない。2つ目には、TPPを考えておくことである。抗体は低毒性と持続性の特徴を生かして低分子と見事に差別化を図っている。3つ目には、やはり複数のモダリティを持っておくことである。メルクはテルカゲパントの開発中止に追い込まれたが、実はその6年前に抗CGRP抗体の特許を押さえているのだ。

出典

“CGRP as the target of new migraine therapies – successful translation from bench to clinic”

L. Edvinsson et al., Nature Rev. Neurol., 14, 338 (2018)

doi: 10.1038/s41582-018-0003-1

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする