天才David LiuがDELと遺伝子治療の未来を語る

NatureにDavid Liuのインタビューが掲載されていました。特に新しい情報はありませんが、DELを含めて創薬と関わりの深い人物なので簡単に紹介します。

David Liu

David Liu(劉如謙)はアメリカの化学者・生物学者です。32歳でハーバード大学の教授になり、Natureに「世界の10人の科学者」に選ばれるなど、現代を代表する科学者の一人です。また、これまでに6つのバイオテックベンチャーを起業したシリアルアントレプレナーとしても知られており、45歳という若さも相まって世界的に非常に注目されています。

…という略歴を聞いてもその天才っぷりはあまりピンと来ませんが、カジノから出禁を食らったというエピソードが分かりやすいかもしれません。もちろんLiuが信じられないほど運が良い人物というわけではなくて、彼は自身で開発したカウンティングという手法を用いてブラックジャックで稼ぎ過ぎてしまったらしいのです。そもそもカウンティング自体が常人には実行不可能なテクニックですが、それを自身で開発し、しかも実行に移したというのが恐ろしいところです。

遺伝子編集

Liuが遺伝子編集という生命科学の一大課題に着手したのは1999年のことでした。DNAの三本鎖形成を利用して普遍的な転写因子を創るという最初の挑戦は失敗しましたが、現在は遺伝子編集の中でも一塩基編集の研究を行っています。

遺伝子疾患の大半は点変異(一塩基置換)に由来するので、理論的には一塩基編集だけでかなりの病気が治せます。CRISPR-Cas9をそのまま利用した、いわゆる狭義の遺伝子治療のようにDNAの二重鎖切断を伴わないので、臨床応用へのハードルも低くなります。

CRISPR-Cas9はDNA切断能を喪失させる(dCas9)ことで、特定の配列を認識するというターゲティング機能だけを利用することができます。dCas9は標的配列に対応したsgRNAを設計するだけで任意の配列をターゲティングできるプラットフォームであり、種々のタンパク質を融合させることで標的配列に対して様々な作用をさせることができます。世間ではCRISPR-Cas9は遺伝子導入という文脈だけで語られるものですが、この技術の本質はこちらにあります。

LiuはdCas9をガイドに用いて、そこに進化分子工学的手法を用いて生み出したアデノシンデアミナーゼを括り付けることで、ATをGCに編集できることを報告しました。

A new DNA ‘base editor’ can change targeted A•T base pairs to G•C, allowing disease-associated mutations to be corrected and disease-suppressing mutations to be...

Liuは今後解決するべき一塩基編集の課題を複数挙げています。一つは核酸等のニューモダリティでも散々問題になっているデリバリーの問題で、もう一つは遺伝子編集技術自体の進歩です。Liuの開発した手法でも半数近くの点変異は治せないし、編集効率とオフターゲットの問題が依然として残っています。

ただし、オフターゲット自体は最終的な問題にはならないと付け加えます。確かに最初の臨床応用はベネフィットがリスクを大幅に上回る疾患に対して行われるでしょう。しかし、そもそも遺伝子変異は我々の身体で日常的に起こっていることです。1細胞あたり1日300個のC→U変異が起きているし、それが修復されなければC→T変異として固定化されます。だから、そういった自然発生的な変異頻度を下回ることができれば良く、無限に正確性を求める必要はないわけです。

Liuは一塩基編集技術を用いてBeam Therapeuticsというバイオテックベンチャーを起ち上げました。つい先月にはさっそく150億円もの資金を集めるのに成功したとのことで、競争の激しい遺伝子治療業界でも目の離せない企業になりそうです。

DEL

DEL (DNA Encoded Library)のコンセプトを最初に提唱したのは、先日亡くなったノーベル賞学者のシドニー・ブレナー博士だと言われています。当時は夢物語でしたが、 分析技術の進歩とともに、 2000年代に入り同時多発的にDELの研究が進展しました。

現在のDELの主流はDNAをタグとして用いるコンビケム的な手法です。一方、LiuはDNAテンプレート合成という、進化論的手法を取り入れた技術を開発しました。この技術をもとに設立したEnsemble Therapeuticsは2017年に畳んでしまいましたが、Liu自身はこの最初の起業経験から多くのことを学んだと言います。

DELがこれだけ普及しているのにDEL由来の化合物が臨床に上がることが少ない理由について、Liuはこう解釈しています。そもそも化合物がDEL由来かどうか見分けることは困難で、DELヒット自体は最適化の出発点として用いられるのだから、最適化した化合物は正確にはDELで見つかったわけではありません。そういった化合物がDEL由来の化合物だとことさらに言わなくなったことこそが、DELが普及技術となり、創薬の手法の一つとして受け入れられた証なのです。

出典

David Liu

doi: 10.1038/d41573-019-00067-y

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