【解2】脱水しないBurgess試薬

前回の解答です。

最初にBurgess試薬について

Burgess試薬はふつう2,3級アルコールの脱水に用いられる試薬です。syn脱離の機構で脱水が進行することから、脱水の位置選択性や、生成するオレフィンの幾何選択性を制御する目的で使われることが多いですね。

応用例もいくつか知られており、水酸基を脱離基に変換して環化反応を起こさせたり、アミドの脱水によりニトリルを作るといった使い方もあります。また、窒素源として使う方法もあり、今回用いられているBurgess試薬もそういった変法の一つです。

なお、普通のBurgess試薬はメチルカーバメートですが、今回は最終的にBoc保護体を得たいので、t-ブチルカーバメートのものが用いられています。

反応機構

原料と生成物を眺めると、Boc基が予想と違う位置にあるぞ?と思ったかもしれません。これを説明できる反応機構を描きましょう。

各工程の中間体を書き出すと、下図のようになります。アミノアルコールのより求核性の高いアミン選択的にBurgess試薬が反応し、スルファミド26となります。水酸基を脱離基に変換し、塩基処理を行うことで環状スルファミド28となり、最後にスルファミド部位を加水分解してcis-ジアミン3が得られます。

ここで疑問なのは、2728の工程でBoc基があたかも転位しているかのように見えることですね。といってもこの条件でBoc基が転位するとも思えませんから、実際には窒素原子ごと移動していることになります。

ということで、想定反応機構は下図の通りです。27はメシラート付け根から数えて5の位置のNHのかわりに、3の位置のNHでSN2反応が進行し、いったんアジリジンを形成します。このアジリジンがアミドの隣接基関与を受けて開環し、今度はイミド部位のNHからSN2反応が進行することで、環状スルファミド28に至ります。

どうして5員環よりも3員環形成が優先するのかが疑問ですね。イミド部位の方が酸性度が高いので脱プロトン化しやすいはずだから、こちらから巻く方が自然に感じられます。これにはいくつか説明が考えられそうです。

環化が進行するにはメシラートがアキシアル配向になっている必要がありますが、このときスルファミドも同時にアキシアル配向となります。その状態では3の位置のNHがSN2反応に非常に良い位置に固定されているし、5の位置のNHは立体障害で近づきにくいから、3員環形成が優先するという説明ができるかもしれません。

また、イミドは確かに酸性度が高いですが、酸性度が高すぎて求核性が非常に低くなってしまっている、という説明もありかもしれません。ただ単純に硫黄原子が大きいから、5員環といってもそれほど有利でないのかもしれません。

背景

一連の反応を全体として見ると、従来はメシラートを分子間反応で叩いていたところを、スルファミドを用いたテザリングにより分子内反応にしていることになります。どうしてこんなことをする必要があったのかというと、実は従来ルートでも類似の隣接基関与が副反応として起きてしまっていたんですね。分子間反応よりも先にBoc基から巻き込んでしまい、trans12が副生成物としてできてしまっていたのでした。

こういう時は副反応が起きないように基質や条件を工夫するか、迂回合成するか、いっそ副反応を利用してしまうという選択肢があります。副反応を利用しようとスルファミドテザリングを試してみたら、予想外に(見た目上)カーバメートも転位したのでBoc基にしたらうまいこと目的物が取れた、というのが出題ルートです。

最終的にフロー合成も取り入れてトンスケールでの供給を達成しています。環上の立体化学制御は本当に奥が深いですね。

出典

“Development of an Efficient Manufacturing Process for a Key Intermediate in the Synthesis of Edoxaban”

M. Michida et al., Org, Proc. Res. Dev., ASAP (2019)

(doi: 10.1021/acs.oprd.8b00413)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする