Arvinas社とPROTAC

2018年9月、ArvinasがNASDAQに上場し、約1億ドルを調達した。

ArvinasはYale大学のCraig Crews教授により設立されたバイオベンチャーであり、同氏の開発したPROteolysis TArgeting Chimera (PROTAC)を利用した創薬を事業としている。メルク、ジェネンテック(ロシュ傘下)、ファイザーといったメガファーマと次々に提携しており、その研究水準の高さが窺える。

PROTAC

PROTACは、細胞膜内のタンパク質の分解を誘導する化合物、つまりタンパク質分解誘導薬である。生体内にもともと存在するタンパク質分解システムであるユビキチンプロテアソーム系を利用して、標的タンパク質を分解(≒ノックダウン)することができる。

化合物としては、分解したいタンパク質のリガンドと、ユビキチンリガーゼのリガンドが、適当な長さのリンカーで結合したような構造を有している。これが細胞膜内に入ると、標的タンパク質とユビキチンリガーゼが紐付けられ、標的タンパク質がユビキチン化される。標的タンパク質は結合したユビキチンが目印となり、プロテアソームにより分解される、という寸法である。

標的タンパク質に応じてリガンドを様々に変えることで、多様な標的を分解できる可能性を持つ。おまけに原理上リガンドはタンパク質のどこにくっついてもよいので、リガンドの相互作用部位は酵素の活性中心でなくともよい。基本的には酵素に対して阻害か作動か調節くらいしか作用モードを持たなかった低分子化合物に、ノックダウンという新しい能力を付与したことで、近年注目を集めている。

探索時の課題

合成の難易度は従来の低分子薬よりも数段高い。

リガンド2つをリンカーで繋げたものなので、分子量は1000近くに達する。低分子と言うよりは中分子であり、膜透過性、溶解度、代謝安定性など、諸々の物性の悪さが予想される。しかしながら細胞膜を通らなければ効かないし、中分子だから基本的には経口化が期待されるのである。

合成展開も煩雑である。従来通りのリガンドの最適化もあるし、リンカーも忘れてはならない。3成分あるから振るべきパラメータも指数関数的に増えている。これだけのサイズの分子となるとちょっとした変換をするのも大変な苦労で、ものすごく手間がかかるものと思われる。

評価も煩雑である。メカニズムから想像されるように、分解誘導活性はリガンドの結合能と直接相関しないから、基本的には細胞系でウエスタンブロッティングが必要となる。Arvinasはよくこれだけ探索できたものだと感心してしまう。

モダリティーの課題

原理上、ユビキチンプロテアソーム系が存在する細胞膜内のタンパク質が標的となるが、一般的に細胞膜内の標的というのは難易度が高い。基本的に細胞間の情報伝達というのは細胞膜受容体から始まるものであって、それをバイパスして直接細胞内に触るというのだから、予期せぬ作用が起こりやすい。しかも、それを分解してしまうというアプローチなので、やはり副作用の懸念は小さくない。

リガンドの選択性が低ければ他の大事なタンパク質も分解してしまうかもしれない。もし有害事象が生じても、休薬してすぐに元の状態に戻るわけではない。薬物動態にも注意深いモニタリングが必要になるであろう。選択性や標的タンパク質の寿命など、これまで以上に詳細にデータを積み上げなければならない。

当面はがん以外の適応は難しいことが予想され、実際にArvinasの開発品はいずれもがんが適応である。

開発品

ARV-110(アンドロゲン受容体分解薬)と、ARV-471(エストロゲン受容体分解薬)が前臨床段階に入っている。

ARV-110は転移性去勢抵抗性前立腺がんを適応症に開発されている。前立腺がんというとアステラスのイクスタンジが思い浮かぶが、同じ標的である。ARV-110の構造ははっきりしないが、イクスタンジもリガンドに用いてPROTACを探索したようである。

ARV-471は転移性ER陽性乳がんを適応症に開発されている。臨床ではフルベストラントというER抑制・分解薬が既に用いられており、機構はやや異なるものの、こちらは分解というアプローチの信頼性が高そうに思われる。

展望

ニューモダリティはたくさんあるが、抗体薬物複合体にしろ、核酸医薬にしろ、ペプチドにしろ、ケミストの出番こそあれど、そのスキルを全開に発揮して取り組めるものはあまり無かったものである。PROTACは、メドケムが持てる有機合成力を総動員して取り組める「超低分子」モダリティーと言えよう。

また、タンパク質の分解と聞いて連想されるのは、アルツハイマー病やパーキンソン病に代表される神経変性疾患である。血液脳関門を越えるためのドラッグデリバリーは必須だが、病因タンパク質を凝集前に分解できれば発症が予防できる可能性がある。がんでうまくいくようなら、メドケムのフロンティアはここにも広がっていくかもしれない。

参考文献

Arvinas

Crews研究室

クレイグ・クルーズ – Chem-Station

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